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イスラム経済は利潤を否定する 緑の資本論 中沢新一

緑の資本論
緑の資本論
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中沢 新一
集英社 (2002/05)
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3 資本主義を超えるという話
5 考えるヒント、、になる1冊です。
5 目からウロコのイスラーム論


 イスラム経済は利潤を否定する

本書は9.11テロに触発された思考が中沢氏をして一気に書き上げならしめた。資本主義とも社会主義とも異なる“イスラーム経済”の根源的な認識と考察である。

時期と場所をほぼ同じくして生まれた3つの一神教であるユダヤ教、キリスト教、イスラム教の成立過程をたどることによって、それぞれの宗教を母体とした社会の経済のほとんど認知されていない表層的差異が、根源的に大きい事を具体的に指摘し、グローバルスタンダードが世界を席捲する中で、先のテロを代表とするイスラム(経済)への理解不足に警鐘を鳴らしている。
 
旧約聖書のエクソダスにあるようにモーセは魔術の国エジプトで奴隷であったユダヤの民を脱出させる事に成功した。神に命じられ一人シナイ山に登り、律法を刻んだ石版を抱えて、降りてくると、心静かにモーセの帰還を待っているはずのユダヤの民は、黄金の小牛の神で祭りに興じていた。訳を問うとモーセの帰りが遅いことに不安になり、それぞれの持っていた金の耳飾などを供出して、火に投じると黄金の小牛の像がでてきたという。モーセは怒り、偶像を崇拝する人々を虐殺する。このモーセに従い、不確定な未来をめざす民が、所持する富を溶かして価値の利潤としての小牛の像が生むというエピソードに金が金を生みだす(利潤)という”ユダヤの商人の経済”=金融経済の根幹を中沢氏は読み取る。

キリスト教は中世のスコラ哲学者によって三位一体論(聖霊と父と子)として理論化されるが、そこには父と子の同質性(貨幣の不妊性:重商主義)と聖霊が父/子に与える増殖性(貨幣の参出性:重農主義)という古典経済学の内部矛盾的矛盾を孕んでいた事をマルクスの「資本論」の記述をヒントに中沢氏は指摘する。
(この論考は心理学者ラカンの理論と重ね合わせて、著作「愛と経済のロゴス」へと展開される)

そしてイスラム教は森羅万象の多様性の全ての存在が唯一の神「アッラー」である。あらゆる存在は表等であり、差異は存在しない。貨幣はモノの一時的代用品であって、交換したり、貨幣が貨幣を生みだすことは認めない。

イスラムの伝統的経済の地スークでの取引きの記述は具体的に、平易に表現されている。

“...欲望は千差万別なのです。その千差万別な欲望をお迎えして、それぞれを満足させるのが、われわれ商人の務めです。どこかの工場で大量生産されたまったく同じ商品を、違った欲望を抱いてスークにやってくるお客様に押しつけるなどは、商人の道に外れたいかがわしい行為です。...定価はどこですって? そういうものはありません。お客様と商品との出会いは、つぎつぎと顔を変化させていきます。...買い物というのは...どこへたどりつくかを決定しておくことのできないゲームなのです。うまくいかなければ、お客様は買わずに行ってしまうでしょう...どうです。面白いものでしょう。少しばかり手間はかかりますが、これこそが人間の抱く欲望と商品との、とても正直な出会いの仕方だとは思いませんか。”


まるで沢木耕太郎の「深夜特急」で読んだ中東での買い物の話のようだ。彼らは商売の交渉に長けていると沢木氏も一般にも言われているが、それはイスラム教徒でない外部の人間の誤解なのかもしれない

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Comments

はじめまして!
このブログは本当に、勉強になります。
全部見るのがとても辛い(笑)

今後も勉強させていただきます。
頑張ってください!

Posted by: 田中圭介 | April 06, 2005 at 01:44 AM

田中さん:大変にうれしいコメントありがとうございます。硬軟とりまぜて、多くの方の参考になるようなブログをめざしています。実は書くほうも、今のペースで本を読んでレビューするのは辛いものがあります。(^^;

息切れしないように、マイペースで、質の高い情報を発信していきたいと思いますので、よろしくご支援ください。

Posted by: 管理人 | April 06, 2005 at 07:12 AM

トラバ、ありがとうございます。
遊びに来ました(笑)

この本はまだ読んでいないので、さっそく読んでみようと思います。

Posted by: 百歩 | January 18, 2006 at 11:09 AM

コメントありがとうございます。本書はカイエ・ソバージュの流れの論考の感がしますが、9.11の事件をきっかけにした、現実社会へのコミットメントを感じさせるという点で、中沢氏の著作の中でも異色の部類に属するかと思います。

感想をまたお聞かせください。

Posted by: 管理人 | January 18, 2006 at 11:54 PM

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