バランス感覚と地に足のついた投資セオリー
黄金の羽根の拾い方で日常生活を、バランス感覚のとれた等身大の投資経済で観点でクールに説き明かした橘氏による株入門書。読者を煽ることなく冷静に、投資というギャンブルを分析しながらも、そのギャンブルとのかかわり方の実践まで、すっきりと披露した好著である。少なくとも本屋にいって、株入門書をあれこれと買いあさって、一つの流派にはまってしまったり、あるいは、異なる意見と情報の洪水に翻弄される前に、一読をお奨めしたい一冊である。
著者の用意周到な、論旨の展開は、ギャンブルに臨んで、頭に血がのぼっている読者をまず、十分にク-ルダウンしてくれる。例えば、こんな風に。
証券会社は長年、株はギャンブルという偏見と戦ってきた。そのため、これまで日本経済は間接金融によって支えられたきたが、これからは個人投資家が直接金融によって市場経済を支えて、社会を豊かにしていくという美談を喧伝する。誰でもわかる三段論法でいうと、ギャンブルはうさんくさい。株式投資はギャンブルじゃない。だから株式投資気はうさんくさくない。
この論法には、やはり、事実を隠微してしまうゆえに人々を納得させない。橘氏は、株式投資が、競馬や、宝くじとは比類ないギャンブル性を備えたものであることを、単純な計算でも自明であると説明し、次の三段論法であるはずと記す。
ギャンブルはうさんくさくない。
株式投資はギャンブルである。
だから、株式投資はうさんくさくない。
実のところ、橘氏は、単にうさんくさいものを対岸から批判しているわけではなく、まだ、インターネットで証券取引ができなかったころに、インターネットで米国の証券会社と先物取引の口座を開き、100万円頭金を1億円にすることにチャレンジしたことがあったのだった。橘氏が1ヶ月でその投資をやめたのは、損をしたからではなく、その値動きが気になって、夜もモニターから目が離せず、就寝中も仕事中も、今も暴落しているのではと強迫観念にとらわれてしまい、精神的にも肉体的にもまいってしまったからだという。橘氏のシミュレーションでは、氏の投資ルールどおりやっていれば、その1月先には2億円を手にしていたことになるが、その一方、その年末には、ポジションを清算していなければ、7億円失っていたことになるそうだ。
このような危うい経験と冷静な視点から、堅実な投資の実践として、人的投資と不動産(住宅)と世界市場ポートフォリオという視点でのお金の運用をささやかに提案する。
人的投資を、橘氏の切り口で説明すると、平均サラリーマンの生涯賃金を3億円、長期金利を1.5%とするとき、新入社員は2億円、50歳では1.6億円のサラリーマン債券を所有していると表現される。歳とともに、債券の価値が下がっていくのは”はたらく”という人的資本の価値が減っていくことに他ならないが、減衰の傾向が低いのは、年功序列の給与体系の表れほかならない。
さらに、橘氏は、冷静かつ現実的に、生涯で一番高い買い物である、住宅の購入が、本人は投資という意識がないながら、不動産投資というリスクをとる行動をしていることを指摘する。その上で、住宅ローンの負債をかかえながらの、ささやかな資金ベースでの数パーセントを利ざやを捻出するために、個人投資にやっきになっている行動の過剰反応を冷静に示すのであった。
橘氏の運用のお奨めは世界市場のポートフォリオである。ある意味、これは一番、リスクヘッジされた手堅い運用であろう。個別銘柄の上げ下げに一喜一憂することなく、日本の経済の好調、不調に依存せず、中国やインドならばもっと...と色気をだすことなく、過去20年平均年利5%の成長の実績があり、リスクとしては、最大、月20%減がある事を紹介している。
世界市場ポートフォリオの組み方、運用に関しては、運用を考える読者の選択・判断するの余地は、まだ、いろいろあると思われるが、個別銘柄の投資情報に翻弄されるよりは、よりマクロかる冷静な視点で運用を考えていく健全性を感じる。
著者の今後の著作活動も楽しみとするところである。
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